名声と富がもたらした苦しみ

中国 田甜

ある春の日、先輩の医師たちとアウトドア料理に出かけました。その道すがら、現地の村人に王(ワン)医師を知る人がいたの。うれしそうに感謝の言葉を口にして、彼女を温かく迎えてた。料理を始めると、足りない物があるのに気づいたけど、村人たちがそれは親切にしてくれて、必要な物をくれたんです。当時、日用品の中には入手が難しく、とても貴重なものがあったの。例えば牛乳。多くの人は列に並んでやっと買ってた。でもそのときは、酪農工場の人が直接持ってきてくれた。すべて王医師の評判のおかげ。王医師が目を細めてほほえむのを見て、羨ましく思わずにはいられなかった。「王先生は、本当に高く評価されてる。どこに行っても敬われ、何も心配する必要がない。ただ顔を見せれば、何事もうまくいく。でも私は、誰にも知られていない臨床医。王先生のように敬ってもらえず、おこぼれにあずかるしかない」そう落胆していたけれど、王医師の白髪を見て思ったの。「まだ私は若い。きちんと医学を勉強して、ベテラン医師から学び、懸命に努力する限り、いつか彼らのように有名になって尊敬される」

それからひと月努力したところ、独りで勤務を任され、手術をするチャンスにも恵まれました。でもこれは最初の1歩。まだまだ頑張らなきゃならない。医学理論の勉強を続け、技能試験も受けて、勤務時間外にはありとあらゆる補習を受けた。緊急手術があれば、勤務時間内だろうと時間外だろうと、手術の機会を逃さなかった。手術が忙しくて、空腹でつらいこともあったけど、自分の体を気にしていられなかった。手術で失敗は許されないもの。24時間とおして働かなければならなかったことも。仕事が終わると、頭がぼんやりして、体も疲れ切ってた。休みたくてたまらなかったけど、父親がいつも言っていた言葉を思い出した。「労なくして得るものなし」。目標達成には努力が必要だという話も。努力して前進し続けられるよう、自分を奮い立たせました。夜、家に着くとすぐ横になって、疲れて痛む体をストレッチでリラックスさせたわ。眠たくなって目を閉じると、手術の様子が事細かに脳裏に浮かんだ。この弱った精神状態では、手術で何か失敗するんじゃないかと怖かった。ささいなミスを犯し、それ以降は手術に携われていない古くからの同僚を思うこともありました。何か間違えば、成功は絶対に無理。そう思うと、とたんにストレスと疲労を感じたわ。怖くて心配で、身も心も疲れ果ててた。翌日に控えた任意の手術について考えることもありました。どんなに遅く帰宅しても、その手術に必要な医療知識を何度も確認して再考せずにいられなかった。ミスを犯さないために。とても疲れてたけど、いつか成功するんだと、自分を鼓舞した。「頑張るのよ。トンネルの向こうには光がある」

激務を7年間やりとおして、やっと認定医になれました。その瞬間、こんな言葉で頭がいっぱいになった。「あの努力は、すべて無駄じゃなかった!」昇格して私の診察料も上がりました。認定医が行なえる手術なら何でも取り組み、主任外科医としても名を連ねた。他の同僚に先んじて、給料も地位も上がりました。言葉にならない幸福感に包まれたわ。特に人通りの多い路上で、誰かに気づかれるとうれしくて。私は相手を知らないのに、向こうは私を知っている。手術の腕を褒められることもあって、尊敬のまなざしで言われたわ。「いついつ、あなたに見ていただいた者です、費用もかからずすぐによくなりました、あれこれずっと試してもよくならなかったのに」と。こう言う人もいたわ。「よい医者だから診てもらえと誰々に勧められたんです、でも最近はなかなか予約が取れなくて」と。そんな話を聞いては、満面の笑みを浮かべてました。幸せでいっぱいだった。しばらく経っても人々の記憶に残っていて、私が有名だからと会いに来る人もいたわ。急に自分の評判が高まったような気がして、達成感を味わいました。でもそんな幸せのあと、主治医の地位からはほど遠いことが頭に浮かびました。私には普通の手術しかできません。主治医になれたら、もっと高度な手術ができるのに。患者からさらに称賛され、より大勢の人が私に診てもらいたがるのに。人々の目に映る私の地位も、さらに上がるんじゃない?

そう思ったあと、名声と富を求めて、より懸命に働きました。夫からは文句を言われ、よく言い争った。夫婦の時間がどんどん減っているって。言いがかりに思えて、うんざりした。自分に何度も問いかけたわ。「あの努力は何のため? 仕事で成功して、いい人生を手に入れるためでしょう? 私は何か悪いことをした? 何もしてないわ。夫が理不尽なだけ。彼には野心がない」私は涙を拭って、さらなる勉強のために、市の医療部隊に志願しました。医療技術を磨いて主治医になるためです。めったにないチャンスに飛びついたの。でも驚いたことに、その研修中に妊娠が発覚しました。子どもができたと分かって、途方に暮れたわ。出産のタイミングだとは思えなかった。大変な思いをしてこの機会を掴んだのに、妊娠したからと諦めて、前途を台なしにはできない。でも赤ん坊のことを考えると、中絶はしたくなかった。そのあと、手術で長時間立ちっぱなしだったこと、過労だったこと、予定外の手術のために食事を抜いていたことが原因で、結局、流産しました。それでも、いっときも名声と富の追求をやめなかった。流産手術の翌日には病院の勤務に戻りました。でもその日は、あまりに体が弱っていて、胃も痛み、手足にも力が入らず、ボロボロでした。ベッドで休むしかなかった。でも頭にあったのは、流産した赤ちゃんでも、自分の体をケアすることでもなく、勉強が遅れてしまうこと。そして卒業への影響のこと。すべて無駄になったらどうしよう、と。

でもそれからさらに7年、懸命に努力を重ね、ようやく念願の主治医の地位に就きました。担当した患者は私を見れば口をそろえて、周りの人たちに、「田先生の手術で私は助かった」と言ったわ。さまざまな特産物を手に自宅を訪ねる人、感謝のしるしに贈り物や商品券を持ってくる人もいた。レストランで食事をしていると、私を見た誰かが、知らぬ間に私の分を支払っていたことも。人からは羨ましがられたけれど、私の幸福感は、はかないものだった。この幸せの裏に困難や苦悩がどれだけあったかなんて、誰も知らない。手術中は小さなミスも犯せない。犯せば、想像を絶する事態になる。失敗したら身の破滅、いつもそう心配してた。薄氷を踏むかのように、慎重に慎重を重ねていたわ。あまりのストレスに、私の心は限界だった。身体もこわし、体重は40キロまで減った。長期間働きすぎたせいで健康を損ない、不眠症、胃痛、胆のう炎に苦しんだ。食事や睡眠も無理で、一晩中ヒツジを数えて、ときには4錠も睡眠薬を飲んだけれど、無駄だった。日中は何の気力も湧かず、頭がぼんやりした。両脚はまるで鉛のよう。耐え難い苦しみだった。苦笑いを浮かべて思ったわ。「地位と称賛を得たけれど、普通の人のように眠ることも食べることもできないなんて」仕事も何もかも遠ざけて、ただぐっすり眠りたいとすら思った。でもそれは、かなわない願い。さらにつらかったのは、私が最も看護と世話を必要としたときに、夫は外でお酒を楽しんでいたこと。独り悲しみに耐えるしかなかった。夜の静けさのなか、惨めで無力な思いでした。なかなか眠れず、眠れても暗闇の中、目的地も家への道も見えず、手探りで歩き回る夢を見た。恐怖のあまり、「ああ!」と叫んで飛び起きたこともあって、額には汗がにじんでた。明かりをつけてベッドの端に座り、患者の敬意や、家族の称賛を思った。それでも苦しみは、ちっとも楽になりません。何年間もの努力を思い返して、こう自問し続けたわ。「出世のために、人生の半分をささげて懸命に働いてきた。なのに結局、輝かしい瞬間はさておき、私が得たのは、病気の体と、夫の裏切りと、果てしない苦痛だけ。なぜなの? 有意義で価値のある人生を送るには、どう生きるべきなの?」とにかく苦痛から逃れたかった。占い師に占ってもらったり、偉人の言葉に答えを求めたり、人気の「プラスエネルギー」を試したりしたわ。インターネットで仏教に答えを求めたことも。でも満足できる答えはなく、問題はこれっぽっちも解決しなかった。病気がつらくてたまらなくなり、人生に希望を見いだせず、先も見えなかった、まさにそのときでした。全能神の救いの恵みを受けたのです。

そして信仰を得たあと、神の御言葉に答えを見つけました。こうあります。「人間はひとたび名声と利得を手に入れれば、それを利用して高い地位や莫大な富を堪能し、人生を楽しむことができると考えます。名声と利得を、悦楽の追求と不徳な肉の快楽を手に入れるために利用できるある種の資本と考えるのです。人間は、自分が求める名声と利得のために、無意識ではあるが率先して、自分の心身や所有するすべて、将来、運命をすべてサタンに引き渡します。こうするのに実に一瞬たりとも躊躇することなく、引き渡したものをすべて奪回する必要にも気づかないままです。このようにしていったんサタンを頼りにし、サタンに忠義を尽くしたなら、人間は自分自身を支配していることができるでしょうか。もちろんできません。人間はすっかり完全にサタンに支配されます。すっかり完全に泥沼に沈み込んだのであり、そこから抜け出すことは不可能です。ひとたび名声と利得の泥沼に陥いると、人間は明るいもの、義なるもの、美しく良いものを求めなくなります。これは、人間に及ぼす名声と利得の魅力が強すぎるため、それが人間が生涯を通して終わりなく永遠に追求するべきものとなってしまうからです。これが真実ではないですか(『神を知ることについて』「唯一無二の神自身 VI.」〔『言葉』第2巻〕)。御言葉は私の心を照らしました。王医師とアウトドア料理に出かけたとき、私は心に決めた。「地位を得て高度な技術を身につけよう。そうすれば人から敬われ、特別な待遇を受けて、人生がうまくいく」と。サタンの毒も受け入れてました。「ガンは飛び過ぎる時声を残し、人は死ぬと名を残す」、「一頭地を抜く」、「人は上をめざし、水は下に流れる」。そのせいで名声と富が人生で追求すべきもの、そして目標となっていた。さらなるキャリアを求めて絶えず懸命に働いた。周りの人から尊敬され、称賛されて、本当の達成感を味わった。でもその達成感が、私を誤った道に進ませたの。人生の最盛期、10年以上の年月を名声と富の追求に費やし、家族とお腹の赤ん坊を犠牲にした。健康も損ない、残ったのは病気の体。情けないことに、そういった犠牲を払ってようやく思った。「名声や富が何なの? それらを求めたことで、私はくたびれ苦しんだ。やっと手に入れても、言葉にできないほど苦しんでる。間違いなく、名声と富を追うのは誤った道」名声と富を追って奮闘するのは悪の力なのだと、やっと分かりました。ロープのように人を縛り、窒息させるの。それは、サタンが私に課した束縛のようなもの。そのせいで自らすべてを犠牲にして、苦しみを選んだ。結果、サタンの望みどおりになった。神の御言葉にもあります。「サタンは名声と利得を用いて人間の思想を支配し、人間が名声と利得しか考えられないようにします。人間は名声と利得のために奮闘し、名声と利得のために苦労し、名声と利得のために恥辱に耐え、持てるすべての物事を犠牲にし、名声と利得のためにすべての判断と決断を下します。このようにして、サタンは目に見えない足かせを人間にかけ、人間にはそれを外す力も勇気もありません。したがって、無意識のうちに人間は足かせをかけられ、大変苦労しながら歩んでゆきます。この名声と利得のために、人類は神を避け、神を裏切り、ますます邪悪になります。このようにして世代を追うごとに人間はサタンの名声と利得の只中で破壊されてゆきます(『神を知ることについて』「唯一無二の神自身 VI.」〔『言葉』第2巻〕)。サタンのいやらしさが分かって、心の底から神に感謝しました。私がサタンに追いつめられたとき、神はただ座って静観していなかった。私に救いの手を差し伸べ、御言葉で私を慰め、励まし、苦痛の根源を見つけさせてくださった。人を最も愛するのは神。神は受肉して真理を表わし、善と悪、正と負の見分け方を教えてくださった。これ以上、名声と富の追求に人生を費やし、誤った道を歩むわけにはいかない。創造主をあがめなければ。その後は神の御言葉を読むことにより時間を費やし、理解してない問題は兄弟姉妹と交わりました。互いに助け、支え合うために。いつのまにか、いくらか真理を理解して、以前よりも物事が分かるようになってました。心もかなり落ち着いた。不眠症もだんだんよくなって、胃痛や胆のう炎も治っていった。名声と富を追っても、そんなことは無理。霊が解放された喜びを実感しました。

その後も、同僚たちは出世を目指して働いてた。なかには、私よりも技能が低い同僚、私が指導した同僚もいたけど、みんな准教授になりました。少し、チャンスを逃した気がした。体を壊してなかったら、10年前に戻れたら、なんて思ったわ。私の技術なら、少なくとも准教授にはなれてたはず。でも出世のために病気になり、苦痛にさいなまれたことを思い返した。すると、これはサタンのずる賢い企みなんだと気づいたの。サタンは私の欲望を利用して、私を名声と利益の渦に引きずりこもうとしていたんです。再び名声と利益を追っていたら、いのちを落としていたでしょう。そんなの無意味。主イエスの御言葉を思いました。「たとい人が全世界をもうけても、自分の命を損したら、なんの得になろうか。また、人はどんな代価を払って、その命を買いもどすことができようか(マタイによる福音書 16:26)。全能神もおっしゃいます。「正常な人、神への愛を追い求める人として、神の国に入って神の民の一人になることは、あなたがたの真の未来であり、それはこの上ない価値と意義をもつ人生であって、あなたがた以上に祝福されている人はいない。なぜわたしはそう言うのか。それは、神を信じない人は肉のために生き、サタンのために生きているが、今日あなたがたは神のために生き、神の旨を行なうために生きているからである。あなたがたの人生にはこの上ない意義があるとわたしが言うのはそのためである」(『神の出現と働き』「神の最新の働きを知り、神の歩みに従え」〔『言葉』第1巻〕)。御言葉から、神の御旨が分かりました。どんなに地位や評判が高くても、名声と富を追うのは誤った道。死につながる道なんです。その道を歩んでいては、神の祝福も御加護も受けられない。真理を求めて本分を尽くし、神の働きを経験して堕落から抜け出し、神を知ろうとして初めて、。有意義で価値のある人生を得て、最後に神の祝福を受けられる。これこそ人が持つべき本当の未来です。あのまま肉の利益を満たそうとしていたら、神に祝福されないばかりか、神から憎まれていたわ。知り合いもそれを経験しました。上司の娘さんが、大学を卒業し、海外で成功してたの。でも長年の過酷な競争と、極度のストレスから、鬱病になって飛び降り自殺した。友人の息子さんは、若くして経営者になって成功したけれど、お付き合いで酒を飲み過ぎ、肝硬変を患った。半年も経たないうちに亡くなったの。友人は、傷心から一晩で髪が真っ白になったわ。こんな御言葉が心に残ってる。「人間は、金銭でいのちを買えないこと、名声で死を消し去れないこと、金銭や名声では、一分一秒たりとも人間の寿命を延ばせないことを悟ります(『言葉は肉において現れる』)。名声や利益は苦悩を取り除いてくれないし、いのちも守ってくれない。つかの間の幸せを与えたあとは、死の深えんに人を引きずり込む。そのことが分かって、周りから心を乱されたり、影響を受けたりしなくなりました。限られた時間を使って真理を求め、神を知り、神の要求に沿って生き、神の家で本分を尽くしたいと思うようになった。

ある日、別の病院の院長から電話で言われました。「退職したそうだね。慰労会を計画してるんだ。以前に話した協力体制についても話したい。君の主治医免許を当院に掲げたいんだ。そうすれば以前の患者が来てくれる。ここで働くもよし、当院の理事になるもよし。君に任せる」それを聞いて、こう思わずにはいられなかった。「名声と利益の追求に人生の大半を費やして、私が得たものは何? 名声と利益に埋もれて生涯を過ごすの? 名声と富を求める苦悩を振り払うのは容易じゃなかった。今では、ヒツジを数えて眠ることも、不安や恐怖を1日中感じることもない。神を信じ、真理を理解することで得た心の安らぎを味わった。この幸せを、しっかりつかんでいたい。病院に免許証を掲げるだけだとしても、私が介入すべき問題が生じれば、本分に支障をきたすはず。」全能神の御言葉を思いました。「現在、あなたがたが過ごしている日々は決定的である。それはあなたがたの終着点と運命にとってこの上なく重要である。そのため、今日もっているものすべてを大切にし、過ぎゆく一瞬一瞬を大切にしなければならない。この生涯を無駄に生きたことにならないように、可能な限りの時間を作り出し、最大の成果を獲得できるようにしなければならない(『神の出現と働き』「あなたは誰に忠実なのか」〔『言葉』第1巻〕)。神に巡り合うという千載一遇の機会を得られて、本当に幸運でした。人生の意義を知り、苦悩のふちから抜け出せたのは、神のおかげ。どうしてサタンの懐に戻れるでしょう。神の働きは終わりに近づいてたけど、私はまだ真理を得てなかった。1日1日を大切にして、限られた時間の中で真理を追求しなければ。それが、すばらしい人生というものです。神の御旨を理解した私は、院長の申し出を断りました。受話器を置いた瞬間、それまでにない解放感を得られて、思わず言ったわ。「名声と利益の追求は、ずっと前にやめるべきだった」ほかの病院も協力体制の話を持ちかけてきましたが、すべて断りました。今は、本分に力を注いでいます。毎日、心の安らぎを感じ、満たされた思いです。それは物質的な快楽や、名声や地位では得られないものよ。私を救ってくださった全能神に感謝します。

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